「Border Book-境界の旅-』を出版するきっかけは、静岡県浜松市の都田のドロフィーズキャンパスに現れた青島左門さんの「国境を越える鳥」というアート作品でした。ドロフィーズキャンパスは、人が人として美しく生きる事をテーマに、住宅設計から日用品まで、上質なライフスタイルを提案しているエリアの総称です。天竜浜名湖鉄道都田駅をリノベーションし、マリメッコの布で覆った駅cafeをはじめ、都田地域全体に北欧的なスローライフを体現するホテル、レストラン、カフェ、ガーデン、ブックストア、ギャラリーやショップが点在しています。その一画にある『蔵で旅するブックストア』の前に『国境を越える鳥』は現れました。合計で300万個をこえる青い石と大地の石で境界が描かれた庭園空間で、1000年後にその境界が混ざり合う事を想像して制作された、ランドアート作品です。人や自然が関わることによって少しづつ混ざり合うその境界について、鑑賞者の方が少し立ち止まって考えるきっかけを形にするために始まったBorder Projectの一環として、この本を制作いたしました。
絵を描いている宮林妃奈子さんは、言葉になる前の感覚を直観的に捉え、ドローイングに昇華させることで自他の領域を抽象化できる素晴らしいアーティストです。彼女の絵が持つ自在な筆づかいと豊かな色彩は、境界を捉えるドローイングとしてふさわしいと感じています。テキストについては、生死の領域に挟まれた命の境界をテーマにしました。それは現代に生きる私たちが、あまりにも無防備に死を忘却していると感じているからかもしれません。仏教用語で「境界:きょうがい」には《各人をとりまく境遇。境涯。精神・感覚の働きによりもたらされる状態。境地。》という意味があり、人間が様々な事象を認識するための基本的な五感(色、音、匂い、味、触覚)を、自らの内と外をつなげる「境」として捉えるそうです。この絵と言葉を通して、読んでくださった方が「境界」について考えを巡らせるきっかけとなれば幸いです。
Borderbookの他に、Border Cardも作らせて頂きました。様々な当たり前が変わりゆく今、「国境を越える鳥」を歩いて考えた今を記録しておくためのポストカードです。ドロフィーズキャンパスの『蔵で旅するbookstore』で配布しており、特設ポストに投函すると、2030年に自分からのメッセージが届く、タイムカプセルのようなプロジェクトです。